おはよう無、まだ気分が優れないか?

あぁこれは…いつだったかの…。

おいで無…。今日はお前の特別な日だよ。

心地のよい、夢…。




俺が師匠に拾われて何年目だったかに風邪を拗らせて寝込んだことがあった。
原因は簡単。
師匠に頼まれた薬草を取りに朧と二人で出かけたはいいものの、はっきり言って俺と朧はうまがあわない、顔を合わせればいつも喧嘩していた。
その日も確かささいなことで喧嘩して、二人別々に薬草を探すことになったんだったかな…。
朧にだけは負けたくねぇって言いつけられた時間を過ぎても籠に薬草を詰め込んだのがまずかったのかなんなのか、運悪く雨に降られちまってずぶぬれになりながら師匠のところへ帰った。
怒られはしなかったが逆に凄い心配していたらしい。
結局塔までたどり着いたはいいがその時にはもう発症していて、師匠が冷静ながらも実は慌てていたのを覚えてる。

タオルは何処だったかな…あぁいいやこういう場合はバスタオルのほうがいいのか…?

俺の頭をぐしゃぐしゃとタオルで水分を吸い取り、体をバスタオルで拭き、着替えさせ、半強制的に布団に寝かされた。
それから何日間かなかなか熱が下がらない日々が続いて、師匠がほとんど付き添って看病してくれてた。
ガキ臭い話だけど、その時ばかりは師匠を独り占めできて嬉しかったと思っていたなあの頃は…。
まぁ4日目ぐらいからだんだんと調子が戻ってきて…昼過ぎだったかに起きて、師匠がいる部屋へと歩いていったら。
いつもと変わらない微笑で迎えてくれたっけ…。

おいで無。もう食欲も回復しただろう?

そういって近づいた俺を師匠は抱き上げると椅子に座らせた。
目の前にはテーブル、そのテーブルの上には何かの箱がのっかってって…
師匠がその箱を開けてくれるとそこから顔を出したのは赤いクリームのケーキ。
あんな閉ざされた中でいったいどうやってケーキを作ったのかは今でも謎なんだけど、すげー嬉しかった。

お前の病気が治ったお祝いのケーキじゃないぞ?私がお前を拾って一年になる…いわばお前の誕生日ケーキだな。

俺の頭をそういいながらやさしくなでてくれた師匠は俺の向かい側の椅子に座り、ケーキを食べやすい大きさに切ってくれた。

おめでとう無。今日はお前の特別な日だよ。

その時優しく微笑んだ師匠の顔が急に遠のいた。
身体には何か重い感触…。

ああ、この重さはよく知っている…。

害の無いものだと安心した俺は心地のよい夢から現実に引き戻したそこにいるであろう張本人の顔を浮かべながらうっすらと目を開けた。
「むーちゃん!おはよ!」
思ったとおり。
そこには赤ムシクイの桜が俺の腹のあたりに座り込んで無邪気な顔で笑っていた。
「ああ、おはよう…ってもう昼か…」
とりあえず上半身だけを起こし頭をかきあげると、桜がじゃーんと言いながら両手に隠していた黄色い花を俺に突きつけた。
「むーちゃん!おたんじょうび、おめでとう!」

ああ、そうか…道理であんな夢を見たのか…。

今日は4月4日…まぎれも無く俺の誕生日であり、俺が師匠に拾われた日でもある。
俺は桜からのプレゼントを受け取ると、礼の代わりに、彼女のまだ小さな頭をなでてやった。
いつか師匠が惜しみなく俺にしてくれた様に…。

今あの人は何処にいるのだろうか…。







END









written by 月
月下美人












































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