その日お散歩がてら色々な所へと気の向くままに歩いていたらいつの間にか立派な薔薇の咲くお庭に迷い込んでいた。
すぐに出ようと想ったけどお庭に咲いている薔薇がとっても綺麗でついつい見とれてしまっていた私。
すぐ側にはこれもまたとっても立派なお屋敷があって。
一般庶民の中でも下の方(多分)にいる私としては唖然としてしまった。
きっとお金持ちな貴族さんが住んでるんだろうなぁ…。
そう今日咲いたらしい赤い薔薇をぼーっと見つめていたら…。
今までのことがふいに頭の中で整理が妙についた。
貴族さんがいるお庭に不法侵入しちゃったよ私!は、早くここから出なきゃっ…!
いくら故意ではないとはいえ、勝手に入ってしまったことは変わりない。
これがもし厳しい人ならば叱られるだろう。
引き返そう。
そう私は庭からでようとした時。
あまりにも急いで出ようとしたために作られた石の道に足を取られ私は勢いよく転倒してしまった。
「いつつ…あ…切れちゃった…」
勢いよく躓いたせいで下駄の鼻尾が切れちゃった…。
このまま帰るわけにもいかないしなぁ…とりあえずこの鼻尾直さなきゃ…。
「…どうしたの?」
聞き覚えのない声。
ふっと見上げるとそこには赤毛の20代の若いお兄さんがじーっと私を見ていた。
「ふえあっ!?ご、ごめんなさいっ!薔薇が綺麗だったのでお庭に入らせていただいてましたっ!すぐ帰りますっ!」
燕尾服を着ている辺りここの執事さんかもしくはここのお貴族さん!
どうしよう、悪いタイミングで見つかっちゃったかなぁ…。
「でも…切れちゃってるね」
ひょいと鼻尾が切れた下駄を拾い上げてその人は言った。
「だ、大丈夫です、歩いて帰ります!」
下駄を返して貰おうと立った時、鼻尾が切れた方の足首に痛みが走ってちょっとだけよろめいてしまった私。
まさか捻挫した…?
「痛いの?うん、解った」
ふっと柔らかくその人は笑うと一言“失礼”というと私を抱き上げた。
「ひゃっ!?」
み、見かけによらず力があるんですね、じゃなくて!
「だ、大丈夫ですよ!お、重いでしょうから下ろしてください…っ」
男の人に抱っこされるのなんて初めてだよぉ…あうあう…
混乱してるうちに私はいくつかお庭に設置されているテーブルも置いてあるべンチの一つに座らされた。
「腫れてきちゃうかな…?氷どこだっけ…」
のほほんとしながらその人は大きなお屋敷の何処かへと行ってしまうと、私が入ってきたお庭の入り口から小さい女の子3人がわーっとやってきて私の側によってきた。
何処の子だろう?ま、まさかさっきの人の子供…!?そ、そんなわけないよね?
「お姉ちゃんどうしたのー?」
「あ!足腫れてるよ!」
「痛い?ちょっと待っててねー!」
げ、元気な子達…いいことなんだけど、なんだか圧倒されちゃうなぁ…。
その子達は私を“大丈夫だからねっ”と励まして私の所にきた同様にわーっと再びあのお貴族さんが入っていった所からお屋敷へ入っていった…。
再び一人になった私…。

こ、これからどうなっちゃうのかなぁ…怒られることに…なるかなぁ…うーん…
そんなことを考えながら、ひねった足首をちらっと見ると…確かに腫れてきちゃってる…
困ったなぁこれじゃあ帰れない…。
しばらくするとあの3人の女の子達が氷とタオルの入った桶を落とさないようにゆっくりと持ってとてとてとこっちへやってくる。
「お姉ちゃん今冷やすからねー!」
「おうちに帰れるようにクルマも頼んでくれたからねっ」
「痛くないよーすぐ治るからねっ」
こんな小さい子に励まされるなんてなんだか嬉しいような情けないような…
うん、でも元気を出さなくちゃね!
ってクルマってどういうことなんだろう!?
「あ、あの…クルマってどういう……冷たっ!」
いきなり足に冷えたタオルをあてられて私は思わず声をあげてしまった。
うう…なんかしみるよぅ…。
「…お医者さんにいったほうがいいかな…?」
いつの間に戻ってきたのかびっくりしちゃったけど。
再びあの赤毛のお貴族さんが私の腫れた足をのぞき込んで、首をかしげていた。
でも何故か手に持っているのは豪華なティーセットを詰め込んだおぼん…。
「た、多分大丈夫ですっ!」
「そう?でも…明日になっても痛いようだったら病院に行ってね…?」
そういって彼は手に持ってきていたティーセットをテーブルに置き、せっせとお茶の支度を始めた。
「お姉ちゃんもクルマが来るまで一緒にお茶しよっ」
「ええ、そ、そんな悪いですっ!看病までしていただいてお茶なんて…!」
なんでこんな展開になっちゃうんだろう、間違って入って来ちゃったのにこれじゃあ完全にお客様扱いだよぅ…そりゃあ怒られたりするよりはいいけど…
「お茶嫌いなの〜?ケーキもあるよ〜?」
「ねぇねぇいいでしょ〜?」
熱で暖かくなったタオルを取り替えてくれた子がどうしてもといいたげな顔で目を潤ませて私を見ている。
うっ…そんな、可愛い顔されたら、断ろうにも断れないよぅ…はぅ…。
結局小さい子達の押しに負けて、私はしばしのティータイムをご一緒することになってしまい、おいしいケーキもごちそうになった。
ケーキもおいしかったけど凄い香りのいい紅茶だったなぁ…。
その間に子供達にせがまれて、私はここへ迷い込んだ経由と芸者をやっていることを話した。
その代わりといってはおかしいけど、ここのお貴族さん、花宵さんのこともお話して貰った。
話しによれば、この元気のいい女の子達は自分の子供じゃなくてそれぞれ花宵さんが引き取って育てているらしく、毎日をのびのびと過ごして、薔薇作りに勤しんでるとのことらしい。
だからここの薔薇はとっても綺麗に自由に咲いているのかなぁってなんとなく納得しちゃった。
そんな話しをしながら私たちの仲がよくなったころに一台の人力車がやってきた。
彼女達がいっていたクルマってこのことだったみたい…。
お代は花宵さんが払うって言ってくれたけど。看病してもらって、お茶までごちそうになってその上帰り賃まで貰ったらばちがあたりそうだと思って、せめて人力車のお代だけは払わせてくださいって頭を下げてお願いしたら、花宵さんがすぐ側に咲いていた一輪の薔薇を切って私にくれた。
「じゃあせめて、早くよくなるように…」
ふっと笑って花宵さんは3人の女の子達と一緒に家路につく私を見送ってくれた。
「また、また来ますから」
その姿に私は思わず人力車に揺られながらもそう声を出して、花宵さん達の方を見ると、あの女の子達が同時に“きっとだよー!”と声を張り上げているのが見えた。
なんだか…あったかい…。
あの子達に見えるように私は手をふって、短かったような長かったような迷子の一日を終えた。

今度いく時は、この薔薇が咲ききった時にいってみようかな?







END









written by 月
月下美人












































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